授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

比較言語学

比較言語学は,印欧語比較言語学に限っていうならば,広くて深い世界です.「広い」というのは,研究するにあたって,英独仏露はいうに及ばず,ラテン語,ギリシア語,サンスクリット語,(更には最近研究がすすんでいる)ヒッタイト語といった古典語を修めなくてはならないということであり,「深い」というのは,19世紀から綿々と続いている研究をしっかりおさえなくてはいけないということです.そもそも研究書が読める程度になるまでの外国語を1つ習得することですら大変なのに,それを4つも5つも要求されるわけですから,まっとうに印欧語比較言語学をやろうというのは,まさに畢生の大業だと思います.

そもそも,言語学に限らず,どの学問分野に関しても,その学史,つまり,学問の歴史は知っておかなくてはなりません.今問題になっていることの背景には,やはり歴史的な流れがあるからです.言語学に限っていえば,言語学を志す人は当然言語学史をおさえておくべきで,その知識なしで,現在流行っていることをやっても意味は全くありません.そして,言語学の場合,その学史をおさえる上で重要なのが印欧語比較言語学です.従って,印欧語比較言語学の広くて深い世界にもぐりこまずとも,どのような研究がなされ,その時代背景はどうであったかぐらいはしっかり理解しておかなくてはなりません.

確かに印欧語比較言語学は,「敷居の高い」分野ですが,それを分かりやすく説いている入門書として,テキストにあげられている本に加えて,次の1冊をあげておきます.

高津春繁『比較言語学入門』(岩波文庫,1992年)

これは,もともと『比較言語学』という題で1950年に岩波全書の1つとして出されたものを,旧字体を新字体に,横組を縦組に改めたものです.文庫本だと,新字体だけれども縦組(いろいろな語例が出てくると読みにくい)という点が,一方,旧版だと,横組で読みやすいけれど旧字体という点がそれぞれ難点ですが,そのどちらを優先するかは,自分次第です.それはさておき,この本は,内容がとても明快で,まさに「入門」というに相応しいものです(ちなみに,私が学部生の頃は,文庫本がありませんでしたので,古書店で手に入れた旧版を読みました).

授業の時にほんの少し触れましたが,印欧語を話す民族がもともとどこに住み,どのような社会制度や文化習慣をもっていたかを探る方法を紹介したものとして,

風間喜代三『印欧語の故郷を探る』(岩波新書,1993年)

をあげておきます.これは,テキストの中で紹介されていた同じ著者による『言語学の誕生-比較言語学小史-』(岩波新書,1978年)の印欧語の先史研究に関する部分を補ったものといえます.

日本語の系統に関しては,

服部四郎『日本語の系統』(岩波文庫,1999年)

があります.1959年に出版された同名の本がもとになっていますが,特に,厳密な手法をもって琉球語との音韻対応を記述しているあたりは,今なお熟読する価値があります.しかし,文庫だからといって,電車の中で読み通せるようなものではなく,岩波書店もよくこんな難しい本を文庫にしたものだと思います(笑).

印欧語以外の比較言語学の入門書で,しかも日本語で読めるものというのは,残念ながらなさそうです(そんなのがあれば,私もほしい.笑).あえてあげるとすれば,漢字という直接的に音声を表わさない文字を用いている中国語の古い形を再構する方法を説いた,

平山久雄「中古漢語の音韻」,牛島徳次・香坂順一・藤堂明保(編)『中国文化叢書1:言語』(大修館書店,1967年)所収.

をすすめます.表音文字を使っている印欧語は,音=文字の関係があるという点で,直接的に音韻対応を探るのが容易だったわけですが,中国語はそのような状況に恵まれていませんので,そこにまず大きな障害があるといえます.この平山論文は,その障害をどのように克服し,隋の時代の中国語の音韻をどのように再構するかを説いたものです.但し,初級者向けとはありますが,内容はかなり高度です.

こんなようなところで,比較言語学の世界に少しはまってみては如何でしょうか.但し,抜け出せなくなっても知りません(笑).
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by jjhhori | 2004-05-18 17:53 | テキスト