授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

「もう一度,弾かさせてください!」

今週は,授業をお休みにしてしまいましたので,せめてこの裏番組だけでもひとつネタを.

さて,タイトルをみると,私が何か楽器を演奏させろと騒いでいるように思われるかもしれませんが,そうではありません(笑).今やっているNHKの朝の連続ドラマの話です.

先週でしたか,主人公が東京音楽学校を受験する時,手首を怪我して,ピアノが思うように弾けず,そこで試験官に発したのが上のセリフ,つまり,「もう一度,弾かさせてください!」というセリフです.

ここで問題となるのは,「弾かさせる」という動詞の部分です.「弾く」に使役の「させる」が付いたものですが,「させる」が付くのは,一段動詞・カ変動詞であり,五段動詞の「弾く」には,「させる」ではなく「せる」が付いて,「弾かせる」となるところです.要するに,「さ」が余分に入り込んでいるわけです.

こうした現象は,井上史雄『日本語は年速一キロで動く』(講談社新書,2003年)によると,「サ入れことば/サ付きことば」といわれるもので,1980年代末から1990年代にかけて刊行された『方言文法全国地図』(国立国語研究所)では,「書かせる」に対して「カカセル」という形式が静岡市付近に現われているそうです.さすが日本語の最先端の地,静岡です(笑).

このドラマの主人公は,愛知県岡崎市出身の設定で,時代は,戦前の昭和のようです.ドラマの中では,三河地方の方言が使われていますから,この「サ入れことば」も岡崎の方言を意識して使ったのでしょうか.それとも単に「口が滑った」のでしょうか.と,私がこんなことを気にしている間に,主人公は,音楽学校の試験に滑ってしまいましたね.ちなみに,青森出身の画家が出てきますが,あの役の俳優は,青森の方言のまねをしているものの,東北出身者ではないでしょう.発音を聞けば,すぐに分かります.

この「サ入れことば」は,二種類ある使役の形式(「セル」と「サセル」)を「サセル」一本にするという単純化への流れのひとつであるといえます.これは,ちょうど,いわゆる「ラぬき言葉」が二種類ある可能の形式(「レル」と「ラレル」)を一本にするのと並行した現象とも考えられます(参考:前出の『日本語は年速・・・』).同じ機能をもつ形式を動詞の活用によって使い分けるというある種の「無駄」を省こうというわけですね.ただ,「ラぬき」は短い形式を生み出しますが,「サ入れ」の方は,長い形式となる点で,若干違うともいえます.

これと関連して,最近やたらと目(と耳)に入る表現として,「~させていただく」というのがあります.例えば,「私の方からご説明させていただきます」のように,人によっては,これを連発することもありますね.単に「ご説明いたします」でいいと思うのですが,それだと,どうも素っ気なく,丁寧度に欠けると感じるのでしょうか.元は,関西の「~させてもらう」で,それが丁寧表現となって全国的に使われるようになったと思いますが,関西の「~させてもらう」は,その使い方において,必ずしも「~させていただきます」とは同じではないように感じます.

この「~させていただく」については,いろいろと言いたいことがあるのですが,長くなりますので,この辺で終わらせていただきます(笑).
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by jjhhori | 2006-05-18 10:51 | ことば