授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

フィールドワークあれこれ(1):寝泊りはどうするのか?

今回のテキストは,著者が近しい人ですので,あれやこれや書くと,「ちょっと!アンタっ!何書いてんのっ!」というお叱りがくるかもしれないことを考え,当たり障りのない話を書くことにします(この授業の受講生以外でも結構みている人がいるらしい・・・).

「フィールドワークをしている」などというと,必ずといっていいほど「寝泊りはどうしているんですか?」という質問をされます.人間にとって必要な衣食住のうち,食と住はどうするのかというもっともな疑問です.そういった質問に対し,「普通のお宅にホームステイしています」というと,聞いた相手は,何となくがっかりしたような表情をみせるものです.「いやいや,熊にビクビクしながらのテント生活で,熊と争いながら一命を賭して川で鮭をとっていますよぉ」という,サバイバルゲームを連想させるような答えを期待している人が多いのでしょうね(私の思い過ごしかもしれませんが).

まぁ,でも考えてもみてください.私が行っているのは,カナダのブリティッシュ・コロンビア州の北西海岸にあるクィーン・シャーロット諸島(「ハイダ島」とも)というところで,カナダといえば,いわゆるG7の一つです.島であっても,電気・水道が通じているところで,特にこれといった不自由を感じることはなく,また,熊と格闘しているわけでもありません(実際,熊はいますが).

私が滞在しているのは,70代後半のハイダ族のおばあさんのご家庭.普段は,そのおばあさんとトイプードルと一緒に一夏を過ごしています.そのおばあさんには,私の仕事のお手伝いをお願いしているのですが,それがとても楽しいらしく,私がいる間は,朝からハイダ,昼もハイダ,夜も寝るまでハイダで,一緒にやっている私の方がくたばりそうな感じです.まぁ,とにかくお元気,決してじっとしていません.

『滅びゆくことばを追って』では,著者が滞在中のモーテルに話者を連れてきて調査を行なっていましたが,私の場合は,自宅(というより,そのおばあさんのお宅)か,あるいは,村に住んでいる別の話者のお宅に行って,調査をしています.いわば「通い型」です.ホテルかどこかに滞在するというのは,自分のプライバシーが完全に保護されて,仕事に没頭できるという点でとても魅力的です.しかし,観光地でもある島には私が泊まれるほど手ごろな値段のホテルがありませんし,ホテルのあるところと話者の方たちが住んでいるところが離れていますので,この「お招き型」は,私の場合,ほとんど不可能です(それよりも何よりも,ホテルに泊まると,食事のことを考えなくてはならないという難点があります).

勿論,人の家に1ヶ月以上滞在するわけですから,それなりの気疲れというものがあります.例えば,突然のお客さんが来たためにその日の予定がすべてパーになったなんてこともしょっちゅうあります.また,調査に通っているお宅に,夏休みで帰省している孫たちがいたりすると,お年寄りの目は,完全に孫に釘付け,調査の方は,気もそぞろ,もう知ったこっちゃないという感じになります.ある時など,折角とった録音資料も子供の「ギョェエエエエー!」と泣き叫ぶ声とそれを叱り付ける親の声にかき消されて,肝心の部分が全く録音されていなかったなんてこともありました(涙).まぁ,子供がいたら,その日は,ダメだという覚悟をする必要があるわけです.

まぁ,こういったことはありますが,普通の家庭に滞在したり,調査のために訪れたりすることによって,知り合いも増えますし,また,家族のように扱っていただけるのは本当にありがたいことです.実際,今お世話になっているお宅に着いてその見慣れた風景をみると,「あぁ,帰ってきたなぁ」という一種の安堵感すら覚えます.まぁ,そうした気分を味わいたくて,何度も同じところに行っているのかもしれません.フィールドワークをすることによって,自分の帰省する先がもう一つ増えた,何となくそんな感じがします.
[PR]
by jjhhori | 2006-05-25 10:03 | 裏話