授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

日本語の構造

「日本語は世界の中で最も難しい」とか「日本語は主語を省略するからあいまいな言語だ」といった,極めて無責任な日本語論が横行しているのは,言語学を専攻する者にとって,なんとも嘆かわしいことです.言語というのは万人に共通のものですから,言語に関して云々するのは言語学者の特権ではなく,言語と向き合う様々な人が加わるべきだとは思います.しかし,その多くは,日本語とヨーロッパの言語の1つか2つしか知らない人によるものであって,私たちは,そういった無責任な日本語論に惑わされない目を養うことが必要です.

さて,日本語は,江戸時代の国学に始まり,その流れを継ぐ国語学において研究がなされ,その蓄積は膨大なものがあります.しかし,その対象とするのは国語であって,日本語ではありませんでした.つまり,他言語といえば,せいぜい漢文と対照するぐらいで,他の言語との構造上の類似や相違を明らかにし,そこから,言語一般に通ずるような理論を構築することに重きがおかれることはありませんでした.「国語学」が「日本の言語学」になり得ていないということは,特に構造主義の言語学が日本にもたらされた辺りからいわれていますが,今でもその状況は変わっていないと思います.尚,その一方で,「国語」ではなく,「日本語」を研究対象とする日本語学という分野があります.それは,国語学が培ってこなかった面を研究対象とする分野(のはず)ですが,しかし,アメリカの言語学で開発された理論を日本語に適用することに汲々としているのが現状で,そのような状況が続く限り,やはり「日本の言語学」に成長する可能性は望むべくもありません.

確かに,日本語が多くの研究者によって盛んに行なわれていますから,当然,日本語そのものを扱った論文や著書は,膨大な数のものがあります.そして,それらの中には,日本語の特徴や特質を論じているものも多くありますが,そのほとんどは,国語学の人の手による独りよがりな日本語論ですので,読む時間の無駄を思えば,読まない方がいいでしょう.

そうした中で,白眉のものとして,お薦めしたいのが

河野六郎「日本語の特質」,亀井孝・河野六郎・千野栄一編著『言語学大辞典 第2巻 世界言語編・中』(1989年,三省堂)

です.これは,同辞典の「日本語」という項目の中の一編で,同辞典に収められた様々な諸言語にみられる事象をもとに日本語を捉えたものです.その中には,「アルタイ型用言複合体」とか「単肢言語と両肢言語」といった独創的な着想も盛り込まれ,まさに「日本の言語学」の一歩となるものといえるでしょう.勿論,内容はかなり高度ですが,明解に書かれていますので,ある程度の知識をもって丹念に読んでいけば,十分理解できると思います.

ちなみに,テキストの著者は,この「日本語の特質」を紹介するにあたって,「日本語を研究しているヤツはバカだから読まないか,読んでもバカだから分からないかのどっちかだ」とおっしゃっていました(苦笑).
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by jjhhori | 2004-06-23 11:52 | テキスト