授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

対照言語学

言語学は,実用性に乏しい学問で,言語学で培われた知識があろうとなかろうと,直接的に私たちの生活に害が及ぶことはありません.しかし,それでも,語学教育(テキストの開発,辞書の作成など),言語の機械処理(機械翻訳,音声工学など)などなど,その実用性が発揮される分野もいくつかあります.ただ,現実的には,言語の機械処理は,言語学プロパーよりも,むしろ工学系の人の手による研究が中心で,言語学の人が自らすべて開発していることはまずなく,しかも他の分野の補助がどうしても必要になってきます.

その中で,対照言語学は,言語教育に資するという点で,言語学プロパーにおける実用性の高い分野の1つです.勿論,言語教育にとどまらず,言語類型論にも発展し得る,魅力的な分野です.しかし,2つの言語にある何を比べるかによって,その出来不出来が決まってきます.つまり,比べる軸がしっかりとした根拠のあるものなのかどうかが重要で,それがなければ,全く異質のものを比べるだけの無意味な研究になってしまう危険性があります.例えば,テキストに例示されていた日本語の「ハ」と「ガ」とチェコ語の語順の問題は,かたや助詞という言語要素,かたや語の配列という点で異質なようにみえますが,それらを比べる軸が「既知」と「未知」であるところに,対照研究の価値があります.比べる軸を何におくかによって,研究の成否が決まってくるといえるでしょう.

今日,対照言語学の研究が多くなされ,おそらくそれなりの成果があげられていると思いますが,その厖大な研究のひとつひとつに目を通したわけではありませんので,関連図書をあげるのは,なかなか難しいところです.私の知る限りで,優れた本をあげるとするならば,

Chao, Yuen Ren. 1968. A grammar of spoken Chinese. University of California Press.

ぐらいでしょうか.これは,英語で書かれた中国語の文法書で,20世紀の記述言語学の最大の成果といってもいいすぎではありません.音韻から始まり,形態論,統語論に至るまでのすべてを網羅した本で,将来,中国語を研究しようとする人にとっては必読書の1つです.中国語訳も2種類出ていますが,やはり原著を読むべきでしょう.著者のYuen Ren Chao(趙元任)については,次回の授業で詳しい紹介がなされますので,お楽しみに.
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by jjhhori | 2004-07-21 16:25 | テキスト