授業内容の補足・推薦図書の追加・言語学よもやま話など


by jjhhori

裏話8:第一サティアン訪問記

7月も終わりかけのある日,日本チャペック兄弟協会から一通の書信が届きました.チャペック兄弟協会というのは,テキストの著者が設立したチャペック兄弟(カレルとヨゼフ)の作品の研究と鑑賞を主たる目的とする組織です.私は,その会員ではあるものの,チャペックのチャの字も知らない,一種の不名誉な会員ですが,まぁ,それはともかく,「何じゃろ」と思いながら,封を開けてみると,8月某日に第一サティアンにて先生の蔵書のガレージセールをするとのこと.カナダに出発する2日前,しかも,7月末に引越しをし,その荷物がまだ十分片付いていないにも拘わらず,このような機会を逃せば必ず後悔するであろうと思い,行くことにしました.

場所は,世田谷の某所.第一サティアンは,甲州街道から少し奥に入った住宅街の中にあるマンションの一室.7~8畳程度のワンルームの三方の壁には本棚が据え付けられ,更にその前をふさぐようにダンボールで臨時に作られた本棚が並び,部屋の中央にも同じような本棚があって,まさに本だけの部屋でした.おそらく先生お一人だったならば難なく移動できたのでしょうが,今日は,先生の蔵書をじっくり吟味し,一冊でも多く手に入れようという人たちで溢れかえり,外の暑さと部屋の中の熱気で息苦しくなるぐらいでした.

前にも紹介したとおり,ここ第一サティアンはスラブ関係と言語学関係の蔵書がおさめられていたそうです.聞くところによれば,上野にある国際こども図書館に600冊あまりのチェコ語の児童書や絵本がすでに収められているそうで,今回は,その他の蔵書の一部を整理してガレージセールを開いたとのことです.おそらく稀覯本も含まれているのでしょうが,せいぜい高くて3千円,ほとんどが100円から500円という値段でした.

しかし,いざ選ぶとなると,何となく妙な遠慮が出てくるものです.手にとってみていると,どうもあの世から「あー,それ,ダメダメ」といわれているような気がし,何度も出したり引っ込めたりしていました(笑).それよりも,本の数が膨大なことと,何しろ,ほとんどがスラブ関係の本で,小説から歴史書,建築関係から美術書などなど,私などがもっていても本に申し訳ない気がして,そういったような遠慮からなかなか手が出せませんでした.

それで結局,言語学関係の本を何冊か買って,サティアンを後にしたのですが,一緒に行った友人は,ドイツ語の小説で先生の書き込みがあるのをみつけて喜んでいました.「あー,そんなのがあったのか」と思っても後の祭り.私が買った本にも鉛筆で線が引かれてあるのがありましたが,果たしてそれが先生による線なのか,それとも前の持ち主のものなのか,さすがに線による筆跡鑑定まではできませんので,ひとまず先生のものだと勝手に思い込むことにしました.

しかし,その日の最大の収穫を得たのは,一緒に行った私の妻でした.彼女は,チェコ語も知らなければ,言語学も全く知らないので,専ら絵本を目当てに探していたのですが,先生が訳された絵本の在庫の中に,チェコ語の絵本に鉛筆で日本語訳が書かれていたものをみつけました.「お子さんが書いたのかなぁ」といって出した本を見て,私と友人は,「これ,先生の直筆じゃない!」とびっくり.全部ひらがなで,先生の細かくて整った字がきれいに並んでおり,間違いなく先生の手です.お子さんのためにお書きになったのか,それとも,下訳だったのか分かりませんが,とにかく我が家の家宝となる貴重な本といえるでしょう.

このガレージセールは,その日が第一弾で,第二弾もその翌週に行なわれるとのこと.もうその日にはカナダに行ってしまっているので,行けないのがとても残念です.でも,これ以上サティアンにいつづけると,本が発する毒ガスにあてられそうな気がしないでもありませんが,その一方で,もう一度,その毒ガスを吸ってみたいと思う気持ちもあるようで,先生の蔵書に込められた毒ガスを吸っては,サティアンを思い出しています(笑).
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by jjhhori | 2004-08-07 22:44 | 裏話