どうも久々の更新です.後期が始まる前に一発更新してやろうと思っていたのですが,前期が終わった後,いろいろありまして(笑),今日まで延び延びになってしまいました.
さて,今回もまたしつこく辞書,特に電子辞書について述べたいと思います.電子辞書に関しては,6月29日の「裏番組」でも取り上げましたが,その後,7月24日の『読売新聞』の朝刊に,電子辞書が売り上げを伸ばす一方,紙の辞書はその存続が危ぶまれるほどに落ち込んできているという記事が出ました.この「裏番組」で私が心配していたことが現実に起きているというわけです.
その記事によると,電子辞書市場は,2006年度見込みで655億円(340万台)の売り上げ(カシオ調べ)があるのに対し,紙の辞書は約10年前の1200万冊から現在は800万冊以下にまで落ち込み,売り上げも200億円以下(つまり,電子辞書の売り上げの三分の一以下)にまで下落しているそうです(但し,ここでいう「紙の辞書」がどの範囲のものまでを含むのかは,不明です).紙の辞書の売り上げが落ちると,「従来通りの辞書作りができるかどうか未知数」(大修館書店)だそうで,電子辞書に搭載されない多くの辞書は,そもそも改訂や存続が一層難しくなるとも記事にはありました.
また,電子辞書に搭載されている辞書も特定のものに集中し,国語辞典では『広辞苑』(岩波書店),英和辞典では『ジーニアス英和辞典』(大修館書店)を搭載している電子辞書が圧倒的に多いとのこと.国語辞典にせよ,英和辞典にせよ,多くの種類の辞書が出版されているにも拘わらず,電子辞書ではその幅広さが損なわれ,一部の特定の辞書しか選べない状況にあるわけです.電子辞書の普及が紙の辞書の衰退を招き,その多様性を奪いかねないという危惧を私は前々から持っていましたが,それが今,実際に進行しており,もしかすると,もはや取り返しのつかないところまで来ているのかもしれません.
「まぁ,辞書なんて,どれも同じだから,どれか残ればいいでしょう」と思う人もいるでしょう.そのように考える人の多くは,高校に入学した時に買った(か,強制的に買わされた,あるいは,買ってもらった)辞書を一生使い続ける「生涯一辞書」タイプであり,外国語の上達はおろか,ことばに対する感覚を養うことも望めません.私にしてみれば,同じ辞書を何十年も使うのは,同じCDをただひたすら何十年も毎日聞き続けるのと同じぐらい,あり得ないことです.そもそも,辞書はそれぞれ編者が異なっているわけですから,当然,編者の語感,経歴,年齢,更には人生観によって,辞書の記述も大きく異なってきます(例えば,有名なところでは,三省堂の『新明解国語辞典』の「恋愛」の項を版ごとに比べられたし).また,同じ辞書であっても,改訂版ともなれば,その前の版に誤りがあればそれを正し,より使いやすくするような工夫がなされているわけですから,それだけでも買う価値は十分にあります.しかし,残念ながら,電子辞書には,紙の辞書における買い替えやすさはまずありません.例えば,『広辞苑』の新しい版が出たからといって,それを搭載した新しい電子辞書に買い替える人など,まずいないでしょう.いうなれば,電子辞書の普及は,「生涯一辞書」タイプの人を増やし,結果的に,辞書出版の伝統を崩壊させることにつながるのではないかと思います.
ところで,三省堂の『大辞林』の第3版が10月27日に出版されますが,紙の辞書を購入すると,Web上で同じ辞書の検索サービスを受けることができるという仕組み(三省堂では,これを「デュアル・ディクショナリー」と言っています)になっているようです.例えば,自宅で紙の辞書を用い,出先でWeb版の辞書を使うというように,用途に応じて紙の辞書と電子媒体を使い分けることができるという点で,辞書の利用度を一層上げることにつながる試みと言えるでしょう.
まぁ,こういった新しい試みがあるうちは,紙の辞書も注目されることと思いますし,辞書出版に携わっている人も何らかの手段を講じて,紙の辞書を存続させる努力をするとは思いますが,しかし,結局,紙の辞書を支えるのは,私たち使用者です.「生涯一辞書」タイプではなく,いろいろな辞書を見比べ,使い分ける,そして,新しい版が出たら買い替える,こういった「辞書オタク」が増えてこそ,紙の辞書が存続するのではないでしょうか.皆さんには,「趣味は辞書です」と言えるぐらいに「辞書オタク」になってもらいたいものです.そのためには,電子辞書の便利なところばかりに目を向けるのではなく,紙の辞書のよさを実感するために,日頃から紙の辞書をせっせと引く習慣をつける,また,自分が持っている辞書の編者,出版年,出版社を確認し,その「序文」を読んで,編者の辞書に対する思いをしっかり酌んでほしいと思います.まずは,辞書に対する愛着と関心を持つことが大事であり,そうすることによって,ことばに対する鋭敏な感覚を養うことができると考えます.
[参考]「潮流:電子辞書時代『紙』の憂鬱」(『読売新聞』2006年7月24日朝刊)
さて,今回もまたしつこく辞書,特に電子辞書について述べたいと思います.電子辞書に関しては,6月29日の「裏番組」でも取り上げましたが,その後,7月24日の『読売新聞』の朝刊に,電子辞書が売り上げを伸ばす一方,紙の辞書はその存続が危ぶまれるほどに落ち込んできているという記事が出ました.この「裏番組」で私が心配していたことが現実に起きているというわけです.
その記事によると,電子辞書市場は,2006年度見込みで655億円(340万台)の売り上げ(カシオ調べ)があるのに対し,紙の辞書は約10年前の1200万冊から現在は800万冊以下にまで落ち込み,売り上げも200億円以下(つまり,電子辞書の売り上げの三分の一以下)にまで下落しているそうです(但し,ここでいう「紙の辞書」がどの範囲のものまでを含むのかは,不明です).紙の辞書の売り上げが落ちると,「従来通りの辞書作りができるかどうか未知数」(大修館書店)だそうで,電子辞書に搭載されない多くの辞書は,そもそも改訂や存続が一層難しくなるとも記事にはありました.
また,電子辞書に搭載されている辞書も特定のものに集中し,国語辞典では『広辞苑』(岩波書店),英和辞典では『ジーニアス英和辞典』(大修館書店)を搭載している電子辞書が圧倒的に多いとのこと.国語辞典にせよ,英和辞典にせよ,多くの種類の辞書が出版されているにも拘わらず,電子辞書ではその幅広さが損なわれ,一部の特定の辞書しか選べない状況にあるわけです.電子辞書の普及が紙の辞書の衰退を招き,その多様性を奪いかねないという危惧を私は前々から持っていましたが,それが今,実際に進行しており,もしかすると,もはや取り返しのつかないところまで来ているのかもしれません.
「まぁ,辞書なんて,どれも同じだから,どれか残ればいいでしょう」と思う人もいるでしょう.そのように考える人の多くは,高校に入学した時に買った(か,強制的に買わされた,あるいは,買ってもらった)辞書を一生使い続ける「生涯一辞書」タイプであり,外国語の上達はおろか,ことばに対する感覚を養うことも望めません.私にしてみれば,同じ辞書を何十年も使うのは,同じCDをただひたすら何十年も毎日聞き続けるのと同じぐらい,あり得ないことです.そもそも,辞書はそれぞれ編者が異なっているわけですから,当然,編者の語感,経歴,年齢,更には人生観によって,辞書の記述も大きく異なってきます(例えば,有名なところでは,三省堂の『新明解国語辞典』の「恋愛」の項を版ごとに比べられたし).また,同じ辞書であっても,改訂版ともなれば,その前の版に誤りがあればそれを正し,より使いやすくするような工夫がなされているわけですから,それだけでも買う価値は十分にあります.しかし,残念ながら,電子辞書には,紙の辞書における買い替えやすさはまずありません.例えば,『広辞苑』の新しい版が出たからといって,それを搭載した新しい電子辞書に買い替える人など,まずいないでしょう.いうなれば,電子辞書の普及は,「生涯一辞書」タイプの人を増やし,結果的に,辞書出版の伝統を崩壊させることにつながるのではないかと思います.
ところで,三省堂の『大辞林』の第3版が10月27日に出版されますが,紙の辞書を購入すると,Web上で同じ辞書の検索サービスを受けることができるという仕組み(三省堂では,これを「デュアル・ディクショナリー」と言っています)になっているようです.例えば,自宅で紙の辞書を用い,出先でWeb版の辞書を使うというように,用途に応じて紙の辞書と電子媒体を使い分けることができるという点で,辞書の利用度を一層上げることにつながる試みと言えるでしょう.
まぁ,こういった新しい試みがあるうちは,紙の辞書も注目されることと思いますし,辞書出版に携わっている人も何らかの手段を講じて,紙の辞書を存続させる努力をするとは思いますが,しかし,結局,紙の辞書を支えるのは,私たち使用者です.「生涯一辞書」タイプではなく,いろいろな辞書を見比べ,使い分ける,そして,新しい版が出たら買い替える,こういった「辞書オタク」が増えてこそ,紙の辞書が存続するのではないでしょうか.皆さんには,「趣味は辞書です」と言えるぐらいに「辞書オタク」になってもらいたいものです.そのためには,電子辞書の便利なところばかりに目を向けるのではなく,紙の辞書のよさを実感するために,日頃から紙の辞書をせっせと引く習慣をつける,また,自分が持っている辞書の編者,出版年,出版社を確認し,その「序文」を読んで,編者の辞書に対する思いをしっかり酌んでほしいと思います.まずは,辞書に対する愛着と関心を持つことが大事であり,そうすることによって,ことばに対する鋭敏な感覚を養うことができると考えます.
[参考]「潮流:電子辞書時代『紙』の憂鬱」(『読売新聞』2006年7月24日朝刊)
#
by jjhhori
| 2006-09-26 14:00
| ことば